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神戸地方裁判所 昭和32年(わ)203号 判決

被告人 久野健助

主文

被告人を懲役四年に処する。

未決勾留日数中百五十日を右本刑に算入する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和三十一年八月頃から、神戸市兵庫区湊町一丁目高架下六号において、柔道の教授をしていたものであるが、酒を飲むと乱暴な行動に出ることがあつたところ、同年十月三十一日午後六時過頃から、同市生田区相生町四丁目百九十四番地柔道教師助永明司方において、同人外数名と清酒約二升五合ビール数本濁酒約一升を飲み、更に同日午後九時過頃、同町五丁目二百八十五番地飲食店「三人娘」において、ビール約三本を友人二名と飲んだ後、同日午後十時過頃、同町五丁目三百十一番地ベニヤ喫茶店におもむき、同所において、工員柏迫正義(当二十三年位)と些細なことから口論になり、一旦両名共外に出たが、同市兵庫区湊町一丁目高架下一号飲食店「金寿司」前路上において、知人である大岩純子を紹介しようとしたところ、柏迫が相手にしなかつたので憤激し、右「金寿司」内から刺身庖丁一挺(証第一号)を取り出し、「わしや切るぜ」と怒鳴りながら同人の面前で振りまわしたところ、同人が「突けるものなら突いてみろ」と罵り返したので、これに激昂して突嗟に殺意を生じ、逃げる同人を追跡中、同市生田区相生町五丁目高架下十九号井上武雄方附近道路上において、同人の腹部を突き刺して下空大静脈刺切創を負わせ、因つて同年十一月一日午前九時二十分頃、同市兵庫区福原町吉田病院において右刺切創による腹腔内出血のため同人を死亡せしめたものであるが、被告人は右犯行当時心神耗弱の状態にあつたものである。

(証拠の標目)(略)

心神耗弱の点は、被告人の当公判廷における供述、助永明司の検察官に対する供述調書、医師能野宗次の被告人に対する鑑定書、医師森村茂樹の被告人に対する精神鑑定書を綜合すれば、被告人は本件犯行当時判示の如く飲酒酩酊の結果、是非善悪を弁識し、その弁識に従つて行動し得る能力を著しく減退していたことが認められるので、心神耗弱の状態にあつたものと判定する。

(法律の適用)

被告人の判示所為は刑法第百九十九条に該当するので所定刑中有期懲役刑を選択し、被告人は本件犯行当時心神耗弱の状態にあつたものであるから同法第三十九条第二項第六十八条第三号により法定の減軽をした刑期範囲内で被告人を懲役四年に処し、同法第二十一条を適用して未決勾留日数中百五十日を右本刑に算入し、訴訟費用については刑事訴訟法第百八十一条第一項本文を適用してこれを被告人に負担させることとする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 石丸弘衛 栄枝清一郎 武田正彦)

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